パンプスの難しさ

靴を考えたとき、構造体としてはパンプスがパーツ数も少なく構造も簡単です。
ですが、足に合わせるとなると、最も難しいのがパンプスです。

パンプスの特徴として、紐がない。
紐が無いと言うことは、甲を押さえる面がない。
足が抜けやすいということ。

紐靴に比べてヒールが高い。
ヒールが高いと、体重の加重割合が変わる。
裸足で歩いたときと姿勢が違うということ。
裸足の形状も姿勢に応じて変化するこということ。
それは、パンプス独特の木型形状になるということ。

パンプスが合わないと困っている方の足は、どこかに特徴があります。
外反拇趾、内反少趾、偏平足などの健康被害。
そして、足の個性も影響します。
それが、左足、右足、それそれで違うのです。

パンプスは、木型設計、木型補正の技術が影響します。
抜けないようにと削りすぎれば履き口から出血する。
履き口が食い込んで、皮膚に赤い線が現れる。
市販品では駅まで歩けるのに、オーダー靴が5分歩けないことがおきるのです。
足の構造、歩行運動、靴の理解が無いと誤った補正をしてしまうので注意が必要です。

靴の納品時の禁じ手があります。
作った後に、きついことの調整として底面の中央部を削ったり、くぼませてはなりません。
(親指の根本と、小指の根本を結ぶ足裏一帯)

外反拇趾で困っている方は、人差し指、中指、薬指の根元が痛くて仕方がないのです。
その部分が、歩行するたびに最初に強く当たるように加工してはなりません。
中敷きをめくり。
中路の下を削り、窪むことで、足の容積を確保するために足が入るようになります。
しかし、衝撃を吸収する骨のアーチ形状も逆アーチになり、衝撃の逃げ場がない足裏は痛くて痛くて歩けなくなります。

削った後のフィッティングでは、足の容積が足りるために「足が収まった」「足が抜けない」と思うのですが、まるで歩けなくなります。

外反拇趾でない方でも、痛くて痛くて歩けないでしょう。

私の店に、持ち込まれた手作り靴、既製品、どちらも見たことがあります。
直立時の「きつい」を対処するため、ゆるさを作るのでしょうが、歩くための視点から見ると改悪です。

私は、生徒さんへ「これは良薬のふりをした毒」と教えています。

靴は、納品時に店の中をちょろちょろ歩くための道具ではありません。
納品時に微調整するふりをして、ごまかしてはなりません。

パンプスは、「釣り込み」の技術がないとはっきりと表情に現れます。
引きすぎてしまいデザインのとおりに作れないのです。
甲を押さえる面がないだけで、引くとすぐにデザイン線から外れて落ちてしまう。

婦人靴なので使う革も薄くて柔らかい。
薄くて柔らかいため、落ちやすい。
紳士靴の革のように強く引けない。
女性が履くことを意識して、優しい足当たりになるよう引かなくてはならない。
引きすぎても駄目、引かな過ぎても駄目。

踵の高さも、左右で変わってしまいやすい。
履き口の深さも左右で変わってしまいやすい。

型紙の技術も影響します。
革が薄いために精度を求められるのです。
厚い革だと、精度の悪さを革の厚さがごまかしてくれるのですが、薄い革ではごまかせません。

作りの雑さも影響します。
パンプスは流線形で構成されており、ドレスシューズとして存在しています。
美しく仕上げることがとても大事です。
革を薄くする作業での段差による凸凹。
組み立て作業での凸凹。

ミシンのヨレ。ミシンの脱線。シワ。
釣り込み時の叩きによる凸凹など。
美観に悪影響がないよう気をつけながら作っていきます。
そして、薄い革を加工することで必要になる強度にも気をつけながら作ります。

パンプスは、シンプルな構造体ですが、シンプルゆえの難しさがあります。
補正した木型になると、重ねて難しい。
これらを乗り越えないと、パンプスにならないのです。

紐靴とは違う難しさがあります。
紐靴作れるから、パンプス作れるとはなりません。

「足に合わせる技術、木型補正技術、釣り込みの技術、型紙の精度、作りの良さ」
オーダーパンプスには、これらが必要です。