プロコース 地方からの通学について


【プロコース 受講対象の見直しについて】

これまで当教室では、プロコース・趣味コースともに「関東圏内からの通学」を想定してきました。
その理由は次の通りです。

  • 遠方からの通学は、旅費・時間的な負担が大きいこと
  • 通学の大変さから心が折れ、中途半端な学びで終わってしまうことを避けたかったため

しかし、これまで多くの受講希望者や在籍生と面談・指導を重ねるなかで、考えが変わりました。
今後は、関東圏外からの受講も受け入れます。


【これまでの経験から感じたこと】

私は長年、「プロを志すならば、自ら練習に向き合い、上手くなりたいと思って行動するものだ」と考えてきました。
しかし、実際の面談や指導の中で、その思いとは違った現実が多かったと思いました。


■ プロコース希望者との面談で見えてきた課題

プロコースを希望される方との面談を重ねる中で、次のような傾向が見られました。

  • 「人生をかけた仕事にしたい」という意志を示されるが、自宅練習は行わず、月2回の授業だけで上達できる。開業できると思っている。
  • 面談時に「自習は必要になります」と伝えると、「ではプロコースはやめます」とあっさり答える熱量。
  • 開業に向けた学びを、「努力なしに職業にできる」と誤解している。

ピアノで例えるなら、自習もせず月2回のレッスンだけでプロの演奏家になれると思っているようなものです。
サッカー選手で例えるなら、自習もせず月2回のレッスンだけでプロの選手になれると思っているようなものです。

このやり取りは、数を忘れるくらい何度も行ってきました。

この計画で、何故にうまく進むと考えられるのでしょうか。
練習もせず、月2回の授業を受けるだけで、「御代をいただける水準の仕事」ができるようになるのか否か。
このことを考えない方が、こんなに多くいるんだなと思いました。

こうした面談を重ねる中で、「意志があるように見えて、行動が伴わない」が少なくないことを痛感しました。


■ プロコース手製靴コースの生徒に見られた実情

これまでの受講生の中には、次のような事例も見られました。

  • 技術的な課題を説明しても、自習や復習をしない。
  • 週にわずかな練習すら行わない程度の熱量。
  • 靴を販売した経験がなく、履いていただいた方の声を聞いたこともない、自習と靴教室を合わせて10足も作らないうちに「開業」を決め、会社を退職してしまう。
  • 「わからないことは先生に聞けばいい」「先生にやってもらえばいい」といった依存的な姿勢で、根拠のない “なんとかなる” 思考のまま「開業準備」を進めていて退職していた。
  • 「開業」「独立」という言葉だけが先行し、技術面では大きな不足を抱えたまま課題から目をそらしてしまう。
  • ダニング・クルーガー効果が、靴作りのほとんどに該当していました。

いずれも、それぞれの人生の選択ではありますが、見ていて危うさを感じました。
なぜ、努力の途中で“うまくいく未来だけ”を信じてしまうのか。
技術という足場を築く前に、理想だけを追ってしまうからだと思います。

靴づくりは、手の仕事です。
手を動かさなければ、正しい仕事ができません。
自分を支えるのは、「手を動かした時間、積み上げた技術力」だけです。

これらの経験を通して整理したこと

練習ができない環境では、当初掲げた意志を維持できない。
 いまを改善したいとき、手を動かせなければ、その気持ちは薄まっていきます。

「本当に自分がやりたいことなのか」その意志が固まらない間は、練習するという行動に至らない。
時間があろうとも、作業スペースがあろうとも、ミシンを購入しようとも、漉き機を購入しようとも、環境を整えただけで満足。練習をした気になって終わり。
 機械類は、お金払えばすぐに用意できます。技術は、日々の手を動かすことで作られます。

これらのことから、
学び始めた当初は、練習できる環境 + 当初に立てる意志」が両輪となります。

学び始めてからは、「行動量 + 意志の継続」が、両輪になると思うようになりました。
これらが揃わなければ、プロコースで学んでも活きないと思います。


学び始めてから、できるだけ早く「練習できる環境を整えること」がプロコースを活かせることだと思います。
量をこなさなければ、質は上がりません。


■ 結論

こうした経験を踏まえ、私は次の2点を受講条件の中心に据えることにしました。

  1. 練習量を確保できる環境に身を置くこと
  2. 靴づくりを学び始めた日から、意志を保ち続け、練習すること

このことから、プロコース手製靴コースでは、「自宅での練習」を必須条件とすることにしました。


【通学環境について】

継続的な練習ができる環境づくりは、重要な要素です。
都内近郊では騒音や作業スペースの問題がある一方で、地方在住の方が落ち着いて作業できるケースも多くあります。

  • 都内で部屋を借りるより、地方から通う方が経済的に負担が軽い
  • 騒音・スペースの問題が少なく、練習量を確保しやすい
  • 現在の仕事を続けながら学びを両立できる
  • 現在の仕事を続けることで、経済的負担の設計、生活時間の安定化が計りやすい。

そのため、関東圏外からだとしても居住地を変えずに通学する方法が、現実的かつ効果的、低コストだと思うようになりました。
(上野駅から在来線で50分程度離れた地域なら、作業に適した物件も多く見つかります。通学しながら住宅情報収集することも望ましい進め方だと思います。)


【学びの流れと考え方】

プロコース手製靴で技術を身につけるには、月2回の通学でも最低4年間の継続を想定してください。

一つの成功事例として考えらるのは、通学を始めて数年経過後には靴修理店での勤務を経験し、
受付、返却時のお客様対応・修理スピード・資材の知識、業務単価、メーカーごとの特性、クレーム処理などを学ぶこと。

この経験は、将来の独立・開業のときに自分を助けてくれますので検討してみてください。

通学を続ける中で、

  • 数年後、関東近郊へ住まいを移して通学回数を増やしてみる
  • 数年後、靴修理店に勤務しながら独立準備を進める
    といったステップアップは良い方向転換です。

【開業を見据えた学び】

これまでの受講生の中には、地道に努力を積み重ね、
「開業できる力」と「人に教えられる技術」を身につけた方がいます。

彼らに共通していたのは、
靴づくりを始めた瞬間から目的を持ち、日々の行動に意識を向け続けたことです。

「楽しそうだからやってみたい」だけでなく、
「できるようになりたい」「知ることが面白い」「成長を感じられて嬉しい」「いつか開業するという意志」を持っていました。

そして、
「どうすればお客様の足に合う靴になるか」
「何を学び、どこを改善すべきか」を考えながら、
日常生活の中でも靴に関するアンテナを張り続けていました。

この「日々の意識」と「継続的な観察」が、職人としての深みを育て、信頼される技術者へと成長させます。

指導者である私が「もう大丈夫だ」と感じた方々は、例外なくこの意志を初めから持っていました。
意志は誰かに与えられるものではなく、自分自身で鍛え、育てるものです。


【靴づくりを志す方へ】

手製靴を学ぶ道は、決して短いものではありません。
だからこそ、最初の段階で経済的な負担をできるだけ抑え、
安心して練習に集中できる環境を整えることが大切だと考えています。

私は、自分の先生から学んだ靴づくりを、丁寧に次へ伝えていきたいと思っています。
技を受け継ぎ、次の世代へ繋ぐことが、私にとっての恩返しであり、
このプロコースを続けている理由でもあります。

プロコースは、「学費を払えば学べる」という仕組みではありません。
「職人同士が技を受け継ぐ」 ―― その想いを基にした場です。
靴づくりを志す者どうしが、技と心を共有しながら育っていく場所でありたいと思っています。

怒鳴ったり、貶したりといったことは一切ありません。
一人ひとりが靴づくりに真剣に取り組む姿を見せてくれることが、
何よりの励みであり、私にとっての大切な対価です。

反対に、真剣さを欠く姿勢が続くときは、残念ながら退会していただくこともあります。
それは、信頼関係のもとで技を繋ぐために、必要なことだと考えています。


【学びと鍛錬の在り方】

プロコース(手製靴コース)には、宿題と自習があります。
講師である私が点検し、審査します。
ときに見本を示し、ともに手を動かしながら、改善へ導きます。

それを「自分の技術を確かめ、磨き上げる場がある。上位者より見てもらえる。」と肯定的に捉えるか、
「自習なんて無理だ。できない。面倒だ。」とマイナス要因と捉えるか。
このような場があることを、どのように捉えるかによって歩む道は変わると思います。

当教室は、作り方だけを学ぶ教室ではありません。
作り方だけ学んでも、「外側だけの靴に見えるもの」しか作れないと考えています。
その人の”いま”に応じた指導をしています。

“いま”何に気づいていないのか。 ”いま”何に向き合うべきか。
作り方だけ学ぶ教室では、このようなケアはないと思います。

望ましい見本を見なければ、良いも悪いも分からない。
作り方だけ学んでも、良いも悪いも分からない。

「作り方は手順」であり、「技術」ではありません。
「迷路の地図」を、技術とは言いません。
「プラモデルの組み立て説明書」を、技術とは言いません。


【共に歩む】

当教室は、真剣に技術を身につけたい方、
誠実に靴づくりと向き合う方を心から応援します。

そして、「靴・足」への興味と学ぶ姿勢を絶やさずに歩み続ける仲間として、共に成長していけたらと思っています。