木型の話

靴は、靴の形をした木型に革を寄り添わせて作っていきます。
その木型は、踵の高さによって形状が変化していき、踵の高いものは「ハイヒール」。低いものは、「ローヒール、バレエシューズ」など呼ばれます。

ヒールの高さは、(1cm、1.5cm、2cm、3cm、5cm、7cm、8cm・・・)と変化していき、紳士靴では1.5~2.0cmが多く、婦人靴は1cm程度のバレエシューズ、3cm~5cmのパンプス、7cm以上のハイヒールと区分されています。

木型は、足が着地した形状に合わせて変化していくため1cmヒールの木型と7cmヒールの木型では、肉付き、着地面積など、いろいろな部位に違いがみられます。
そのため、例えば1.5cmヒールの木型では5mm程度の高さの変化が精一杯であり、踵を無理に上げて7cmヒールの靴を作ろうとしても、足収まり、着地時の安定性の観点から作れません。

2cmのヒール高の足の形と、7cmのヒール高の足の形は、全く違うということを考えればご理解いただけると思います。

また、男性と女性の足は、性差により肉付きや骨の大きさが違います。
24.5cm、25.0cmなどは足の大きな女性、足の小さな男性が重なるサイズですが、女性の靴として作られたものを男性が履けることはまれだと思われます。
木型には性差が取り入れられており、男性の木型と女性の木型には違いがあるためです。

また、靴は左右で一対。
つま先形状は左右で同じであることが前提とした商品です。
そのため、つま先を延長したり、つま先形状をいじってしまうことは、左右の見た目に違いが発生し強い違和感として訴えてくるものがあります。
同じように形作ったとしても、違う顔になってしまいます。

無段階にヒール高を変更すること、無段階につま先形状を変更することは、木型に寄り添わせることから形にはなりますが、歩く道具としての観点、足を入れるものとしての観点、商品の美観としての観点から現実的とは言えません。

このことから、一つの木型から作ることができるのは、「決まった形状 と 決まったヒール高」の靴と言えます。

木型補正において、牛革を使用することについてよく質問受けます。
牛革を採用する理由ですが、引き締めた牛革は、叩いても窪まず、凹まず、削ることもでき流れるラインをキープします。

靴を作る途中、木型へ革を寄り添わせるためハンマーで多くの頻度で叩いて均します。
よく叩きますから、叩いている間、凸凹の発生を考えなくてはなりません。
引き締めた牛革は凸凹を発生させませんので、出来上がりに悪い影響を与えません。
これが一つの採用理由です。

また、圧着機では5気圧以上を数秒間かけて靴底を取りつけます。
相当な圧力がかかることから、凸凹が発生しない牛革を使うのです。
圧着機により仮に凸凹が発生したり、崩れてしまった場合。
初期値が無くなってしまうことになるので、その木型は一回使い切りとなります。
二足目を作ろうとしても、木型情報が変わってしまうのです。
これも一つの採用理由です。

昔からある素材を使用する理由は、変える必要がない理由があるからと言えます。