足の測定に関して

教室では、「どこをどう測定すればいいですか?」と聞かれることがあります。
でも、正解は一つではありません。

30カ所測ってもいいですし、1カ所だけでも構いません。
大事なのは、靴を履く人が喜べる靴を作ることです。
測定箇所や数字の正確さだけにこだわる必要はありません。
自分で必要だと思うことをやればいいのです。

私が心がけているのは、両足の測定は5分以内で済ませること
高齢の方や足に悩みを抱えている方が多いので、長時間立たせるのは負担になります。
座って測ることは私にしません。
なぜなら靴は立って歩く道具だからです。
加重されていない状態の足と、立つことで加重された足は全く形が違うからです。
立った状態で、歩くときに足がどう変わるかを意識しながら測ることが大切です。

そして測定値は、あくまで参考情報です。

測定値の最もたるところ。
仮に足を石膏で型どってそのまま靴を作っても履けません。歩けません。
歩行中は片足が地面にあり、片足が空中にある。その繰り返しで靴は使われます。
足の形が変化することが絶えず行われるため、石膏で型とってそのまま作っても履けないのです。
だからこそ、測定値だけに頼るのではなく、歩き方や足の個性、悩みや環境まで考えて靴を作ることが大事です。

私が生徒さんに伝えていることはシンプルです。

  • 測定は必要だけど、時間や箇所を増やしたからといって、必ずしも良い靴になるわけではない。
    測定箇所が多いほどに、測定される人の足は疲れていって不健康なデータをもとに作ることになる。

  • 足の悩みを理解し、快適に歩ける靴を作ることこそが最も大切。

  • 沢山測定してもらった方が、沢山サービス受けているような気がするかもしれないけれど。
    履きやすい靴を作ることと、測定箇所数の増に相関があると思えない。

靴作りには、誠実さと思いやりが欠かせません。
靴を履く人の立場に立ち、悩みや不安に心を向ける。
その姿勢があるからこそ、技術をどう使うかの判断が生まれます。
もし誠実さ、思いやりがなければ、どんなに高度な技術を持っていても、靴は単なる形だけのものになり、履く人の生活を支える道具にはなりません。

重ねて、技術力も不可欠です。
素材の選び方、木型の調整、縫い方や組み立て方など、一つひとつの工程に注意を払い、微細な違いを見逃さずに作ることで、初めて思いやりを形にできます。
技術が不足していれば、どんなに相手を想っても、靴はその思いを支えることができません。

つまり、誠実さと思いやりと技術力は、靴作りにおいて両輪のように互いに作用しあっています
どちらか一方ではオーダー手製靴は完成しません。

心を込めて相手を想うことが技術を引き出し、技術があるからこそ誠実さと思いやりを形にできる。
この両輪がそろって初めて、履く人の悩みに寄り添い、生活を支え、歩く喜びを届ける靴が生まれるのです。


趣味コースとして靴作りを始める方も、ここを少し意識してみてください。
右足と左足は同じではなく、同じ人の足でも日によって状態は変わります。
その違いを感じ取り、履きやすさを考えながら作る経験は、靴作りの楽しさや発見をぐっと広げてくれます。

「この靴を履いたら歩きやすくなった」
「以前より長く歩けるようになった」

そんな声を聞くと、自分の靴で歩いている喜びが自然と伝わってきます。
靴作りは、単なるものづくりではなく、歩く喜びを形にする仕事です。
趣味の時間でも、こうした考え方や視点に触れることで、作る楽しさがより深く味わえるはずです。